【Vol.5】
中国iPad商標問題

 米アップル社のiPad商標問題が、各種メディアで報道されておりますが、従来から知財業界では、中国の「商標ブローカー」による不正登録などにより、外国企業の商標権取得を巡る問題が頻発しています。
 そのような状況下、各国政府の強い働きかけなどにより、中国政府も法改正を行い、少しずつではありますが、著名商標の保護、不正な商標登録の排除も実現するようになりました。
 しかし、中国の司法は、ある法律がどのように判断されるか大変不透明であり、裁判所によって全く異なる判断・結論となることでも知られており、中国へ進出する企業にとって、事前の商標権取得によるリスク回避が最重要であるといわれております。

 今回の中国iPad商標問題は、アップル社が、iPad商標の「所有者(商標権者)」から中国本土を含めた世界各国のiPad商標を譲渡されていたはずであったという前提が覆された点に端を発します。
 アップル社は、英国のダミー企業を通じ、「唯冠台北(台湾企業)」との間で、中国(大陸部)を含めた世界各国のiPad商標の売買契約を締結し、世界各国でiPadを大々的に販売しました。しかし、その後、しばらくしてから唯冠台北のグループ会社である「唯冠科技(中国企業)」は、中国におけるiPad商標は同社に帰属し、アップル社と「唯冠台北(台湾企業)」との売買契約は中国本土では無効であり、アップル社のiPad製品は、同社の商標権を侵害していると主張してきました。これに対し、アップル社は、iPad商標は、アップル社に帰属することを求める訴訟を提起しましたが、中国の裁判所は、昨年末、アップル社の主張を退け、「唯冠科技」の全面勝訴という判断が下しました。

 この判決を受けて、勝訴した「唯冠科技」は、2012年2月、アップル社及びその小売販売店に対し、iPad商標の使用差止、販売停止、輸入差止、輸出禁止など複数の訴訟を提起し始めました。アップル社にとって、アジア最大の市場となる中国での販売中止は、痛手であるといえますが、更に深刻なのは、iPadの輸出禁止です。アップル社のiPadは、台湾で部品を製造し、最終組立は、深セン市などの中国各地で行われております。そのため、中国からのiPadの輸出が禁止となれば、世界各国のiPadの供給にも影響を与えます。
 一方、「唯冠科技」がこのような主張をし始めた背景には、リーマンショック以降の経営不振にあり、その穴埋めとしてアップル社が標的になったのではないかと憶測されております。
 実際、2012年3月5日には、台湾の保険会社が中国広東省深セン市の裁判所に同社の破産を申し立てており、「唯冠科技」は、裁判で得る賠償金を債務償還に充てると主張しているようだと報道されております。

 今回の事件は、iPad商標の売買契約において不備があったことに起因するものですが、中国では、「商標ブローカー」なるものが存在します。彼らは、海外企業のブランドを先行して商標登録し、これらの企業が中国へ進出する際に、法外な金額で商標権の譲渡交渉を持ちかける、あるいは有利な条件でライセンス契約を締結するよう交渉してきます。場合に追っては、今回のように、賠償金・和解金を狙った商標権侵害訴訟を提起することもあります。
 日本を始め、世界の殆どの国が、先願主義(最初に商標登録出願した者に対して、商標権を付与する制度)を採用しており、第三者の不正登録を防ぐ有効な手段は早い時期での商標登録になります。「商標ブローカー」は、中国のみならず、日本にも存在し、商標権を取得していない企業、または適切な範囲に商標権を取得していない企業が標的になります。

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掲載日:2012.03.12
作成者:泉澤
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